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 ぎらぎらと暴力的に降り注ぐ陽光をパラソルで遮り、俺はビーチチェアの上に寝転がっていた。
 俺の右隣には、白いハイネックのワンピース水着を着た栞が同じように仰向けになっている。と、その栞が俺に話しかけてきた。
「祐一さんは遊びに行かないんですか?」
 名雪と香里、そして北川の三人は、少し離れた水辺で波と戯れている。香里はオレンジのストライプ柄のセパレート、名雪はハイビスカスが描かれたパレオ付きビキニという格好だ(北川はどうでもいい)。
 ちなみに、秋子さんは少し仮眠を取った後、今日は風呂でゆっくりするとのことだった。
「なんか今日は朝から疲れたからな」
「私のことは気にしなくていいですよ? みんなが遊んでいるのを見てるだけで楽しいですから」
 かつて雪に喩えられたその肌は今なお白いものの、以前よりもずっと健康的な色を帯びている。けれども、あまり日に焼くのは良くないらしく、体力がないこともあって栞はもっぱらパラソル下の住人だった。
 昨日は俺も一緒になって遊んでいたため、栞に寂しい思いをさせたのではないかと少し心配だった。今日は秋子さんもいないし、俺は栞のそばにいることに決めたのだ。
「いいんだ。今はゴロゴロしていたい気分なんだから」
 俺はそう言って、一つあくびをした。実際、昨日は夜更かししたせいもあって少し眠いのも確かだ。
「そう言えば、昨日の暗号、ちゃんと解いてくれたんですね。私、祐一さんが来てくれないかと思ってちょっと心配だったんです」
「……あー、すまん。実は解いてないんだ、暗号」
「えっ?」
 栞がびっくりして俺を見つめる。
「いや、実は後で解こうと思ってたら、暗号文自体を覚えてなくてさ。栞の態度から待ち合わせ系の文だって当たりを付けて……ドアを細く開けて栞が出て行くのを見張ってたんだ」
 素直に俺は打ち明けた。
「もしかして、ずっと待っててくれたんですか?」
「ずっとって程じゃないな。暗号が短かったのは覚えてるから、零時ごろだとは当たりを付けてた」
「……」
 栞が黙ってしまったので、俺は慌てて謝った。
「すまん、せっかく考えた暗号を無駄にしちまって悪かった」
 しかし、栞は俺に微笑み返す。
「怒ってなんかいないですよ。祐一さんにかかると、謎解きなしで答えを言い当てられちゃうなって。名探偵形無しです」
「ははっ、そんな凄いもんじゃないけどな」
 栞はそこで身を起こすと、ビーチチェアを降りて「よいしょ、よいしょ」と俺の方へ押し始めた。
「どうしたんだ?」
 二人のビーチチェアがぴったり並ぶと、栞はまたそれに横たわって、俺の右腕に抱きついてくる。
「えへへ」
「……暑いぞ、栞」
 動揺を隠して、気だるげに言う俺。
「そりゃ暑いですよ。夏ですから」
「そっか、夏だもんな。なら仕方ない」
「はい、仕方ないです」
 海から届く潮の匂いを孕んだ風を感じながら、いつしか俺と栞はまどろみの中に落ちていった。
 そうして俺達は寄り添ったまま午前中いっぱい寝こけてしまい、戻ってきた香里達にさんざんからかわれる羽目になるのだった。

Fin.

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